粂原くん、対戦してもいいよ

今年も名人戦・クイーン戦の解説をさせていただきました。コロナ禍において練習環境、本番環境が異なる中、選手のみなさんが本当に素晴らしい試合を見せてくれました。ありがとうございました。

今まで辛口解説を行ってきましたがこれには訳があります。もともと言いたいことは言わないと気が済まないという性格ではあるのですが、解説には主に以下の役割があるのではないかと考えて務めています。

①競技を知らない人にも分かりやすく魅力を伝え、理解していただくこと。

②競技を知らない人、競技をしている人にも楽しんでいただくこと。

③競技をしている人に理想や目指すべきかるたを伝え、参考にしていただくこと。※試合を戦っている選手に向けてのメッセージも含んでいます。

この3点目に関しては、私もたくさんの方にメッセージをいただき成長できたと思っています。特に前会長の山下さん、現会長で永世名人の松川さんには厳しくも温かい期待のメッセージをいただき本当に感謝しています。事実として勝っている現役の名人・クイーンに対しては誰であってもなかなか注文をつけるのは難しく、正面から言うことが私の役割でもあると思い、それが結果的にかるた界全体のレベルアップにつながればいいなと思っています。

今年のクイーン戦に関しては正統派同士の真っ向勝負という感じで、辛口になることもなく、見ていても気持ちの良い試合でした。一方の名人戦は、本来のかるた、読まれた音に対して反応して速く取りにいくというよりは、お互いが相手を意識して探り合っているかのような印象を受けました。特に自見くんは粂原くんを意識し過ぎたのか、らしさが出せていない(出させてもらえなかった)し、若い挑戦者らしく我武者羅に向かっていく姿勢を見たかったなと思いました。粂原くんは2回戦後半のチャンスから3回戦にかけては非常に良かったのですが、1回戦、2回戦序盤はもっと厳しさが必要だったのではないかと思います。

少し粂原くんの話をします。彼は異端と表現されるようですが、私は決してそうは思いません。確かに手を出すという「取り方」は異端というか、あまり褒められたものではなく改善して欲しいと願っています。実際にあれだけ接触があり押さえ手が多いと、見ている側からするともっと綺麗な取り方をして欲しいと感じます。一方で「取り方」ではなく、勝つための戦略を描き「取り」につなげる配置や送り札などの戦術に関しては異端でも何でもなく、非常に分かりやすく、勝つためのことをシンプルに徹底してやっているという印象です。左右均等にせず、とも札は並べたほうが楽だし、4箇所勝負より3箇所勝負の方が簡単だし・・・。これらは他の選手ももっと考えるべきではないかと思います。※右に固めて手を出せと言っているのではありません。粂原くんは勝ちを描いた戦略や戦術を実行に移すための「手」を鍛え、次の境地を目指して欲しいなと思います。※手を頑丈にしろという意味ではありません。

もちろんこういったことは、解説や文面で言わずに試合をして伝えるという手段もあるでしょう。現役時代は年下挑戦者の三好くん、岸田くん、川崎くんにはそれをやってきたつもりです。でもさすがに今はそれはできません。昔みたいに取れないこともありますが、やはり名人に挑戦できる人は多い方がいい、できればどんどん若い人が出てきて欲しい、結果的にその方が全体のレベルは上がると思っているからです。

さて、昨年の名人戦後のかるた展望に粂原くんが「西郷さん,対戦しませんか?」という面白い投稿をしていました。ご自身をへんてこなかるたと称し、漫画で言うと完全な悪役かるたでドラゴンボールのフリーザに例えており、思わず笑ってしまいました。今までの名人戦の彼の試合を見る限り、確かに悪役だなーと思っていましたが、今年の試合を見て少し考えを改めました。彼にはベジータの方がしっくりくるなと。

その理由はフリーザレベルの小悪党ではなく戦闘センスがある。絶対勝つという気概、それに向けての努力、手段を選ばない取り方、恐らくプライドも高い。今でも倒すのは相当難しいでしょう。しかしながらベジータは更なる強さを求めてスーパーサイヤ人になった。粂原くんもまだ強くなれる。固めたり手を出さず楽な方に走らず限界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。それに4箇所全部速く取れたほうが気持ちが良いですよ。ぜひその感覚を味わって欲しいと思います。私はもうスーパーサイヤ人のように取ることはできませんが練習するのは大歓迎です。そのうちぜひ取りましょう。

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近江神宮の名人戦の畳にて



選手の目線

先日、山下恵令さんとの模範試合をご紹介しました。ご覧いただきありがとうございました。

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山下さんのキレイな取り、主張(相手への確認)の仕方はぜひ見習って欲しいと思います。しっかりと札を目で捉えているし、安定して同じフォーム、同じ指先で取っているので信頼できますね。決して揉めるような選手ではないのですが、見えていない選手や相手に敬意を示さない選手と対戦すると彼女でもイライラするようですね。心も鍛えてさらなる強さを身につけて欲しい、それが私たちの共通の師匠である田口忠夫さんの願いでもあると思います。

さて、一部使っていない映像も使用して選手がどのように見えているのか分かるように再編集してみました。競技をしている方はもちろん、競技経験のない方にも参考になるのではないかと思いますのでぜひご覧ください。

選手でも取りを捉えられないことも多々あるので、審判からは死角もあるしもっと見えないわけです。特に一流選手の試合の審判は、二人の選手より速く反応するだけでも難しいですし、指先の感覚もなく目だけで判定するのは無理があります。仲裁は必要かもしれませんが、やはり選手同士で主張し合い、お互いが相手を尊重して決めるという本来の形にしていく必要があると思います。デジタル技術の進歩もありますし、一方でコロナにも適応する新しいスタイルとして、審判が近くにいなくても競技が進行できるようになるといいなと思います。

【映像公開】山下恵令さんとの模範試合

模範試合(予告編)公開からしばらく経ってしまいましたが本編の編集が完了しました。ほとんどの方が取り方から山下恵令さん(前クイーン・今年のちはやふる杯優勝者)だと分かったようでさすがですね。

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恵令さんも人の試合(映像含む)を見て勉強する、試合の流れを見て勝負勘を鍛える、盗めるところは盗もう!と言っていましたので公開させていただきます。素人編集ですが送り札なども入れてみました。みなさんの上達の参考になることを願っています。改めて山下恵令さん、三島せせらぎ会の練習にお越しいただきありがとうございました! ちはやふる小倉山杯の連覇を期待しています。

誰かゲストに来てくれたらこのような形で公開したいと思います。私はほとんど練習していませんが、たまにであれば挑戦を受けて立とうと思います。コロナが落ち着いたらぜひお越しください。

久しぶりの模範試合(動画公開予定)

ある選手にお越しいただき模範試合を取らせていただきました。

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昔は良く一緒に練習したのですが、もう10年近く前のことかもしれません。やはり速くて強い選手と取ると気合が入りますし楽しいですね。

最近当会では動画を撮って、自身の振り返りや上級者の取りを参考にしてもらっています。今回の模範試合について、対戦相手の方には許可をいただいたのでオープンにします。まずは数枚だけの予告編ですが、編集し終えたら全編公開する予定です。

対戦相手は誰なのか? どちらが取ったのか? など想像してご覧ください。(私が画面左です)

改めて、畳や札を大切にしよう

近江勧学館の畳の張替えのためのクラウドファンディングが早々に目標金額を達成しましたね。ちはやふる基金のみなさまの呼びかけと、それに応えた全国のかるた愛好者の方々は本当に素晴らしいと思います。より良い環境でかるたができることを、また多くの支援者によってそれが実現できることを、関係者は感謝しながら利用しないといけないですね。

勧学館ができたのが1997年ですから、初めて利用させていただいたのは大学1年の時。それ以来、名人戦で52試合、大学選手権なども合わせると100試合程勧学館で試合をさせていただきました。何度も宿泊させていただきました。本当に素晴らしい施設で、いつも気持ちよく迎えてくださる勧学館のみなさまにも感謝です。この呼びかけを見た時、改めて感謝の気持ちと協力したい気持ちになりました。

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そこでこの機に改めて声を大にして言いたいことは、

全国の選手のみなさん、無駄に畳をバンバン叩くのはやめましょう!

競技かるたで使用すれば通常使用に比べて畳が傷みやすいのは分かると思います。施設によっては畳が傷むことを理由に、競技かるたには貸してくれないところもあります。一振り一振りの積み重ねが畳に蓄積されていくからです。それは競技の性質上仕方のないことですが、一方で取りと関係のない無駄な一振りが畳を傷つけているということも言えます。全員がこれをやめることで、畳の張替えサイクルが少しは長くなるのではないでしょうか。畳城主となられる方も長く使ってくれることを望んでいるはずです。無駄に畳を叩くのは本当にやめましょう。

札も同様です。大石天狗堂のみなさまが心を込めて丁寧に作ってくださっています。たくさん練習して消耗することは喜んでいただけると思いますが、雑な扱いで傷つくことはあってはならないと思います。

BE・LOVE12月号「『競技かるた』のいろはを千早と学ぼう」にも掲載いただきましたが、私たちが競技かるたができるのは、関係者の協力があってこそです。感謝の気持ちを忘れずに取り組んでいきましょう!

※参考に掲載された元の記事を添付します。

※「札や畳を大切にしよう」

※今までは私が小さい頃から使っていた札を中心に練習してきましたが、さすがに限界なので新たにしました。大石天狗堂様ありがとうございました。大切に使います。

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大事な試合の時に食べていたもの

我が家にもちはやふる基金様からチャリティグッズが届きました! カレンダーにかるたの予定を書いて、汗をかくほどたくさん練習してタオルで拭いて、水分補給して、来年はそんな一年になるといいですね。

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さて、明日は名人戦・クイーン戦の東西予選が開催されます。コロナの影響もあり参加者がそれぞれ16名に絞られているので4回戦で終わりますから、6、7回戦に比べて体力消耗戦にならずに良いと思います。役員としてもありがたい気持ちもあります。一方で勢いのあるA級なりたての選手や若い選手の出場機会がなく残念に思います。やはり本気で名人・クイーンを目指す人、これから将来のある人に出場機会を与えてあげて欲しいなと思います。

その理由は、私自身が予選に出場したことで意識も実力もはるかに高まったからです。初めて予選に出場したのは大学1年の時、四段でしたから今のルールでは出場できなかったでしょう。しかしながら有力選手との対戦を経て、閉会式の講評では伏兵の活躍と言われましたが「やれる」という自信がつきました。そして翌年勝ち上がるためにはどうすればよいのか計画を立てることができました。それがあったからこそ翌年も四段のままでしたが予選、決定戦を勝ち上がることができたと思っています。(本選に勝てた理由は他にもあると思っているのでまた今度にします。)

今回は名人戦の時に食べていたものをご紹介したいと思います。大事な試合の前から調整に入りますが、大食いをしないくらいで、普段通りアルコールも飲みます。名人戦の前日は新幹線で移動する間にカツサンドを食べていました。トンカツ(トントン拍子に勝つ)、チキンカツ(鳥、取り勝つ)という験担ぎです。夜は琵琶湖ホテルで前夜祭に出席するのでビュッフェスタイルの食事で、ビールは飲みますがここではほとんど食べた記憶がありません。おいしそなものがたくさんあるのに・・・。試合当日の朝も琵琶湖ホテルのビュッフェで、ここではほどほどに和食を、お米を明太子や納豆、焼き魚といただきます。そして1回戦が終わった昼。お弁当が準備されていますが食べません。控室に代わりに食べてくれるサポーターがいましたので弁当は任せて、ゼリー飲料やチョコレートを少しだけ。あとは栄養ドリンクを少々。差し入れでいただく高いやつは効きます。でも用法用量は守らないとダメですね。反動なのか体が痛くなります。

こういった食事をしていました。なぜ昼食を食べないかというと、その昔試合中にお腹が痛くなったことがあり、そのリスクを避けるためです。逆にお腹が減るリスクが高まるので、試合当日だけでなく普段から食べない生活で慣らしていました。前日の夜はなぜ食べなかったかというと、話しているとあまり食べれないので、昼食でカツを軽く食べ、程よく酔って寝たいのでビールがあれば十分といった感じでした。(唯一1回だけ私の好きな銘柄じゃないビールが出てきたことがあって、そのときは何となく試合の調子も悪かった気がします。)

そして当日の朝食は、昼食を食べないこともありますがある程度腹持ちする米を選んでいました。もともと米が大好きなのもありますが。ちなみに私の師匠である田口忠夫元名人からは、腹持ちの良い餅、芋、バナナを勧められました。琵琶湖ホテルなら餅くらい焼いてもらえるだろうと。そしていつも差し入れは柿の葉寿司でした。これも弁当班が食べてくれました。最後に間食。時間もあまりないので素早くエネルギー補給ができるのでゼリー飲料や栄養ドリンクを飲んでいました。チョコレートもつまみますが、鼻血が出やすい体質なので少しにしていました。(名人戦ではありませんが試合中に鼻血を出した経験もあり、これもまた別の機会に書きたいと思います。)

これは誰かの参考になるのかな、と疑問を感じ始めました。日にちも変わりそうなのでそろそろ終わろうと思います。自分の体は自分にしか分からないので、自分に合ったものを食べて試合にのぞむのが一番でしょう。明日出場するみなさん、がんばってください!