もぐらたたき

コロナの影響で在宅勤務が続いているのに、久しぶりの更新ですみません。この間、多くの方が取り組まれた家の片付けを私も行いました。かるた関連の書類なども結構整理しました。懐かしいものがたくさん出てきましたので、今回はその中からひとつご紹介します。

1999年、名人位を獲得した年のこと。TBSにて深夜帯に放送されていた若者向けの情報バラエティ番組「ワンダフル」にて、全長4.3m、全高1.3mの巨大もぐらたたきに挑戦しました。かるた=反射神経というイメージがあったのだと思います。対戦させていただいたのは、元WBC世界バンタム級王座で4度王座を防衛した薬師寺保栄さん。辰吉丈一郎さんとの日本人同士によるバンタム級統一王座戦はものすごい打ち合いで今でも覚えています。

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ルールは1回10点、50秒間でどちらが多く叩けるかというシンプルなもの。私のもぐらには、ご丁寧に札を貼り付けてくれました。

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結果は薬師寺さんが690点、私が820点と勝たせていただきました。薬師寺さんから周辺視野が広いとお褒めいただきました。

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これは20年以上前のことですが、ビデオテープに録画していたものを発見したのです。テープはボロボロ、ビデオデッキも辛うじて動くという状態でしたが、なんとかデータ化に成功しました。劣化に加えておそらく標準ではなく3倍で録っていたのでしょう。映像は不鮮明で少し残念でした。(若い方は知らないでしょうが、画質を落とす替わりに3倍長く取れるモードがあったのです。)

この映像をデータ化している最中、娘たちがやってきました。休校期間中はひたすら「ちはやふる」を読み続けた娘たちです。既にマニアの域に達していて、高校選手権の決勝で最後に読まれた札は何?とか平気で答えます。そんな娘たちがちはやふるの37巻でしのぶちゃんがもぐらたたきをやっていたよ、と教えてくれました。なまこ貼り付けて新記録。ちはやふるは本当にすごい・・・。

さて、もぐらたたきは目で動きをキャッチして、脳が手を動かしてもぐらをたたく、その速さを競うゲームです。競技かるたは耳で音をキャッチしますから少し違いますが、キャッチするという反射神経には自信があります。もっと自信があるのは運動神経の方です。脳が音をキャッチした後、それを把握して、手に指令を出して動き出すのが速く、かつ指令どおりに正確にできる、これが運動神経です。これが私があまり手を出さずに、かつ正確に取れる理由だと思います。このあたりはまた今度触れたいと思います。

最近のゲームセンターにはもぐらたたきより、ワニワニパニックが多いと思います。どうやら2017年にワニワニパニックの会社は倒産したらしいので、ワニが絶滅危惧種になっているそうです。速さを鍛えるにはちょうどいいと思いますので、ぜひなくなる前にやってみてください。

今後の練習予定(6月中止、7月再開予定)

新型コロナウイルスの感染防止対策が一番厳しく継続している東京都において、19日に休業要請が全面解除されることになりました。会場の貸し出し状況にもよりますが、7月から練習を再開していくことを検討しています。手洗いと消毒、マスクの着用、換気の徹底に加えて、熱中症対策なども行いながら、人数や時間を制限して徐々に再開していきたいと思います。予定が決まり次第、お知らせします。

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家でもできる練習(構え&払い編 重心)

「暗記編」「払い編」「構え編(左手)」を紹介しました。今回は構えと払いのどちらにも重要な「重心」について。自陣左右と敵陣左右の四隅を無理なく速く取るためには、体をどの方向にもスムースに動かせるよう、重心とその移動が重要です。

なんとなく分かっていたのですが、実際に視覚化してくれたのがNHKの「アインシュタインの眼」という番組でした。ハイスピードカメラなど様々な機器を用いて分析してくれました。※2012年1月BSプレミアム 

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眼や耳も調べていただきました。

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さて、構えの話です。下の画像は私の構えを正面から見たものです。

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地面から伸びている赤線が私の重心です。それに対して下の画像の青線がバランスが取れた状態の重心です。私の重心は地面に対して垂直ではなくほんの少し左(相手から見ると右)に傾いていることが分かります。これは右手から遠い敵陣右を取りやすくするために意図的に行っているものです。重心を傾けるために、右足先は指を立て、左足先は立てずに構えています。

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四隅を無理なく速く取るためには、この重心がほぼ真っすぐ伸びた状態が理想であると言えます。そのためには両膝、両足先、左手の5点(右手も僅かですが)で体をしっかり支えて構えること。そして払う時には、右手だけでなく畳との接点である5点をうまく使って重心を移動していくことが重要になります。前回紹介した左手のように、動かしにくい向きに構えているとスムースに移動できなくなります。

下の画像は、右の白丸(黄枠)が敵陣下段の札、左の白丸(橙)が自陣上段の札で三字決まりの別れです。みなさんならどのように取りますか? f:id:saigo3150:20200502183108p:plain

試合展開や相手を考慮しないのであれば、恐らく多くの方が敵陣から取りにいくことでしょう。ポイントはどこで音を聞き分けるかになりますが、手が敵陣まで行き過ぎないことが大切だと思っています。画像は自陣が読まれた時のものですが、重心の赤線を見ると敵陣に向かい短くなった後、自陣右側へと方向が変わり、長くなっていることが分かります。
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そして札に到達する時にはまた右側に戻っています。

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違う角度の画像です。

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分かりにくいかもしれませんが、体はずっと敵陣に向かっていて、右手だけ自陣の札を取りに行っています。これを可能にしているのが特に左手で、掌、手首、肘関節を使って最初は敵陣側に傾けつつ、しかし重心は大きく敵陣までもっていかずに、瞬時に自陣右へ切り替えています。札を取った後も体は敵陣に向かったままなので、重心がまた真ん中に戻っています。両方を速く取ろうとするとこういった重心移動が必要になります。

 

【さらなる上達のために】

ボクシングのパンチを想像してください。ストレートは足から腰、腕や肩を使って、重心を後方から相手側へ移動させることで、拳に体重を乗せて大きく振り抜く威力のある一撃必殺のパンチです。一方で避けられるとすぐに体勢を整えることができないため大きな隙ができます。それに対してジャブはストレートほど重心を移動せず、細かく速く正確に拳を出す(戻して再び打つ)ため、隙は生じにくいパンチです。競技かるたにおいても取り方を使い分ける必要があり、ストレートは終盤や勝負所で使うもので、それ以外はジャブが有効だと私は考えています。もう少し言うと、ストレートは運命戦の敵陣を抜き去ることができるくらい絶対的なスピードで、腕を振り抜き体ごと取りに行くような取りです。札に触れるまでにスムースな重心移動を行い手に体重を乗せることができれば、札際がグンと加速します。しかしながら違う札だった場合は、そこから避けて戻り手や渡り手で取ることは難しくなります。一方でジャブは重心を残しているので大きく振り抜くストレートほど札際で加速できませんが、音を聞き分けて途中で方向転換が可能です。速く取る競技なのに行き過ぎてもダメ、行かなさ過ぎてもダメと本当に難しい競技です。

先ほどの画像は三字の別れでしたので、途中まで手を伸ばしておく方が良いと思いますが、試合を通して一番多いのは二字決まりの札です。どこで音を聞き分けるかということがポイントになり、私の理想は構えた際の手元だと思っています。一音目ではなるべく手を動かさず、二音目前から反応するイメージです。但し、手元で待っていると遅くなるので、肩を入れて肩で反応するようにしています。下の画像は、自陣右中段の「おぐ」を守った時の取りです。 

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敵陣右中段に「おと」があったので、「おと」の方へ反応するも手は出さずにためて、「ぐ」を聞いて自陣を取っています。私のイメージでは戻り手です。肩で反応すると同時に左肘を曲げ、敵陣に行ける体勢をつくり、左手で畳を押して重心を自陣右に移動しています。肩を使うことで相手への牽制にもなります。一方で、例えば読んだ瞬間に手をむやみに出してくる相手に対しては不利になる場合もあります。相手の癖や試合展開を見て柔軟に変える必要もあります。

ぜひみなさんもいろいろ試していただき、自分の体や能力にあった構え、聞き分け、取りを追求してください!

家でもできる練習(構え編 左手)

人がやっていない今だからこそ自宅で練習してレベルアップするチャンスです。この機会に普段おろそかにしがちな暗記、構え、払いなどの練習をやってみてはいかがでしょうか。毎日10分でも継続すればものすごく力がつくはずです。

「暗記編」「払い編」に続いて「構え編」です。無理なく速く取るためには、体をスムースに動かすことのできる安定した構えが大切です。なお、体の大きさや柔軟性は人それぞれですので、構えも人それぞれ、あくまでも私の考えです。

初回は「左手(利き手と反対側の手という意味)」です。体を支えることはもちろん、うまく使うことでスピードを上げることができます。

まずは手の向き。みなさんは①と②のどちらに近いでしょうか?

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①札に対して指先が横を向いている

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②札に対して指先が上を向いている

最近は②「札に対して指先が上を向いている」選手が多いように感じています。私は競技かるたの基本の構えは、陸上短距離のクラウチングスタートや相撲の立ち合いが一番近いと思っています。足と手で体を支え、一気に前に出やすいように腰を持ち上げた前傾の構えだからです。もちろん競技かるたの場合は膝をつきますし、利き手に体重をかけると遅くなります。前だけでなく斜めにも横にも出なければなりませんから、それらの構えから変形が必要になります。

さて、クラウチングスタートにおいて、下の写真のように両手の指先を前にする選手を見たことがあるでしょうか。

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 私はこのように構える陸上選手を見たことがありません。これだと前にでることを手首の関節が邪魔をします。一般的に手首の可動域は、手の甲側には80度しか傾かないそうで、札に対して指先が上を向いた状態では、構えた時点から体が前に行くことを妨げてしまっています。特に敵陣右下段を取る時に影響が出ます。前に行くためには邪魔な左手を畳からすぐに離すとか、体全体ではなく右手だけで取るなど、左手が使えず決してスムースで速い動きには繋がりません。これは左肘の関節でも同じことが言えます。

次に、左手の位置。みなさんは①と②のどちらに近いでしょうか?

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①競技線より内側

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②競技線と同じくらい

①のように競技線よりかなり内側に構えている場合、左手より外側(競技線側)にある札には、左手が邪魔をしてスムースに届きません。指先が上を向いているとなおさらです。敵陣右下段は突き手、自陣左は押さえ手になる人が多い一つの理由だと考えます。左手は膝と同じで体をしっかり支え、イメージとしてはコンパス(右手が鉛筆、左手が針)の支点のように使うことです。半径が小さければ小さな円しか描けませんので外側は届かない。競技線と同じくらいの位置に構え、大きく円は描ける状態で構え、大きく円を描かずにコンパクトに取ることが大切です。

 

【さらなる上達のために】

左手は体を支え、畳につけた状態で重心をコントロールをする大切な役割があります。ですから、すぐに畳から離すとか、前に行けない無理な状態で構えて取るのは得策ではありません。競技かるたは音を聞き分けて速くとる競技ですから、どこで音を聞き分けるかがポイントです。その時にどこに重心があるかによって、速く動ける動けない、次の動作に移れる移れない、これが決まります。重心については次回記載しますのでそちらも参考にしてください。

ちなみに陸上のクラウチングスタートは、第1回のアテネオリンピックで優勝した選手が使用して広く知れ渡ったと言います。それ以前はスタンディングスタートが主流で、選手が体格に合わせて好みで腰を屈めるなどの工夫を行っていたそうです。オリンピック以来、地面をしっかりと蹴り、脚を伸ばす力を有効に推進力に変えることが出来るクラウチングスタートに変わり今に至るようです。競技かるたの構えも体格などによって様々なものが存在してもおかしくありませんが、動きやすい基本となるものがあると思います。その上で自分流に工夫していくことが、体にも無理がなく、上達への近道になるのだと思います。変なクセがつく前にぜひ。

家でもできる練習(払い編)

人がやっていない今だからこそ自宅で練習してレベルアップするチャンスです。この機会に普段おろそかにしがちな暗記、構え、払いなどの練習をやってみてはいかがでしょうか。毎日10分でも継続すればものすごく力がつくはずです。

前回の「暗記編」に続いて今回は「払い編」です。まずは自陣から1枚ずつ確実に取れるように始めましょう。自陣ができたら敵陣です。

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外側の札から1枚ずつ。

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「失敗するとやり直し」というルールにすると緊張感があります。

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【注意】

①一字決まりを想定して勢いよく払う

②払った後はしっかり構え直す(払う場所が分かっているので構えが崩れやすい)

③払うタイミングは一定にする(手拍子をしてもらう、メトロノームを使うとよい)

※うまく払えない箇所がある場合、構えに問題がある可能性があります。

 【さらなる上達のために】

出札を最短距離で取るということは、札の端、つまり隣の札との境目から取るということです。ですから隣の札も少し動くくらいが理想です。

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さらには目隠ししてできたら良いですね。目で見なくても、同じ位置の札を取る時にはいつも同じ角度、同じスピードで手を出し、そして同じ指先で札に触れるように心がけましょう。それができれば主張する時の説得力も増します。ちなみに10年以上前になりますが「報道ステーション」の松岡修造さんのコーナーで特集していただいた時、暗記して目隠しして取りました。どこが読まれるか分からない中、札直で取らないといけないプレッシャーは試合以上でした。もう今はできないかな。ぜひみなさんもチャレンジしてみてください。

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