家でもできる練習(構え&払い編 重心)

「暗記編」「払い編」「構え編(左手)」を紹介しました。今回は構えと払いのどちらにも重要な「重心」について。自陣左右と敵陣左右の四隅を無理なく速く取るためには、体をどの方向にもスムースに動かせるよう、重心とその移動が重要です。

なんとなく分かっていたのですが、実際に視覚化してくれたのがNHKの「アインシュタインの眼」という番組でした。ハイスピードカメラなど様々な機器を用いて分析してくれました。※2012年1月BSプレミアム 

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眼や耳も調べていただきました。

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さて、構えの話です。下の画像は私の構えを正面から見たものです。

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地面から伸びている赤線が私の重心です。それに対して下の画像の青線がバランスが取れた状態の重心です。私の重心は地面に対して垂直ではなくほんの少し左(相手から見ると右)に傾いていることが分かります。これは右手から遠い敵陣右を取りやすくするために意図的に行っているものです。重心を傾けるために、右足先は指を立て、左足先は立てずに構えています。

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四隅を無理なく速く取るためには、この重心がほぼ真っすぐ伸びた状態が理想であると言えます。そのためには両膝、両足先、左手の5点(右手も僅かですが)で体をしっかり支えて構えること。そして払う時には、右手だけでなく畳との接点である5点をうまく使って重心を移動していくことが重要になります。前回紹介した左手のように、動かしにくい向きに構えているとスムースに移動できなくなります。

下の画像は、右の白丸(黄枠)が敵陣下段の札、左の白丸(橙)が自陣上段の札で三字決まりの別れです。みなさんならどのように取りますか? f:id:saigo3150:20200502183108p:plain

試合展開や相手を考慮しないのであれば、恐らく多くの方が敵陣から取りにいくことでしょう。ポイントはどこで音を聞き分けるかになりますが、手が敵陣まで行き過ぎないことが大切だと思っています。画像は自陣が読まれた時のものですが、重心の赤線を見ると敵陣に向かい短くなった後、自陣右側へと方向が変わり、長くなっていることが分かります。
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そして札に到達する時にはまた右側に戻っています。

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違う角度の画像です。

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分かりにくいかもしれませんが、体はずっと敵陣に向かっていて、右手だけ自陣の札を取りに行っています。これを可能にしているのが特に左手で、掌、手首、肘関節を使って最初は敵陣側に傾けつつ、しかし重心は大きく敵陣までもっていかずに、瞬時に自陣右へ切り替えています。札を取った後も体は敵陣に向かったままなので、重心がまた真ん中に戻っています。両方を速く取ろうとするとこういった重心移動が必要になります。

 

【さらなる上達のために】

ボクシングのパンチを想像してください。ストレートは足から腰、腕や肩を使って、重心を後方から相手側へ移動させることで、拳に体重を乗せて大きく振り抜く威力のある一撃必殺のパンチです。一方で避けられるとすぐに体勢を整えることができないため大きな隙ができます。それに対してジャブはストレートほど重心を移動せず、細かく速く正確に拳を出す(戻して再び打つ)ため、隙は生じにくいパンチです。競技かるたにおいても取り方を使い分ける必要があり、ストレートは終盤や勝負所で使うもので、それ以外はジャブが有効だと私は考えています。もう少し言うと、ストレートは運命戦の敵陣を抜き去ることができるくらい絶対的なスピードで、腕を振り抜き体ごと取りに行くような取りです。札に触れるまでにスムースな重心移動を行い手に体重を乗せることができれば、札際がグンと加速します。しかしながら違う札だった場合は、そこから避けて戻り手や渡り手で取ることは難しくなります。一方でジャブは重心を残しているので大きく振り抜くストレートほど札際で加速できませんが、音を聞き分けて途中で方向転換が可能です。速く取る競技なのに行き過ぎてもダメ、行かなさ過ぎてもダメと本当に難しい競技です。

先ほどの画像は三字の別れでしたので、途中まで手を伸ばしておく方が良いと思いますが、試合を通して一番多いのは二字決まりの札です。どこで音を聞き分けるかということがポイントになり、私の理想は構えた際の手元だと思っています。一音目ではなるべく手を動かさず、二音目前から反応するイメージです。但し、手元で待っていると遅くなるので、肩を入れて肩で反応するようにしています。下の画像は、自陣右中段の「おぐ」を守った時の取りです。 

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敵陣右中段に「おと」があったので、「おと」の方へ反応するも手は出さずにためて、「ぐ」を聞いて自陣を取っています。私のイメージでは戻り手です。肩で反応すると同時に左肘を曲げ、敵陣に行ける体勢をつくり、左手で畳を押して重心を自陣右に移動しています。肩を使うことで相手への牽制にもなります。一方で、例えば読んだ瞬間に手をむやみに出してくる相手に対しては不利になる場合もあります。相手の癖や試合展開を見て柔軟に変える必要もあります。

ぜひみなさんもいろいろ試していただき、自分の体や能力にあった構え、聞き分け、取りを追求してください!