克己復礼

昨年協会に寄稿を依頼され、お蔵入りしたものを少しアレンジして掲載します。

試合中こういった心構えで臨んでおりました。ご参考まで。

 

「克己復礼」 

名人戦の舞台に何度も立たせていただきました。そこで一番大切で難しいことは「己に克つ」こと。相手を負かすことではなく、自分の欲を抑え、困難を乗り越えることです。この1枚が自分の取りなら楽なのに、そう思うこともありました。自分の取りと相手の取りとでは2枚差がつきます。特に緊迫した終盤戦では勝敗に大きく影響します。そういった真価が問われる場面で私はこう考えていました。 

「100%はない」 

私は目隠しした状態で、ほぼ全ての札を札直で取ることができます。さらに、どういう状態の札に触れたのかほぼ正確に判断できます。有効手の右手中指に加え、右陣は薬指、左陣は人差し指の2本、その指先だけで札を取るよう心がけています。相手が触れていない状態の札、相手が先に触れて力がかかっている状態の札など、指先だけで状態を判断できます。(ちなみに目はそれを補助する程度だと思っています。)

この感覚には相当の自信を持っていますが、それでも「ほぼ」という状況で、自分が100%取った確証にはなりません。ですから主張が食い違う時は、「相手が分かるくらい明らかに早く取れなかった自分の責任」と思い、気持ちを切り替えてきました。 

 これは心に余裕をもつために、自分のために行ってきたことです。心に余裕がなければ、相手を思いやり、規範や礼儀にかなった行動をすることが難しくなります。

一方で相手の主張を聞き入れて譲ってきたわけではないので、相手のためにはなっていなかったかもしれません。今のかるた会の状況を見ると、見習うべき上級者のマナーも決して良いとは言えないと感じています。見逃してきた私にも責任があると言えます。これからは物言う会員としてマナー向上にも務めていきたいと思います。